歯医者の気分

昨日は良い天気。夜中に少し降り木々が美しい。

ムスメのメルボルンでの結婚式も終わり、ホッと一息といきたいところだが、仕事に追われている。
クライアントからは「いつでも良いですよ」と言われているが、やる気になった時、ノッテいる時に一気に済ませなければ終わらない。人物の顔、それも少女漫画の世界であるから、眼の周りの表現が難しい。とてもガラス切りではカット出来ない幅数ミリ幅の半円弧などはダイヤモンド・ソーでカットするのだが、まるで歯医者である。
あぁ、外に行きたい!

で、思い出したが、かつて40年近く前にワタクシと同年輩のトクタニさんという面白く、豪快な歯医者が原村にいた。
ワタクシの親知らずが横向きに成長し、隣の歯を圧迫して痛いのなんの。頬が腫れて膨れ上がり固形物が何も食べられなくなり、彼のところに飛び込んだ。強い鎮痛剤だか抗生剤を処方され「痛みが取れたら松本歯科大にでも行って抜いてもらえ」との事であったが、当時、松本歯科大では入試不正だかで問題になっていて、とても行く気になれず「トクタニさん、頼むから何とか抜いて」と頼み込んだ。「しょうがないなぁ〜、じゃやるか!」と日時を決めたのだが「好きな音楽テープを持ってきて。なんせ痛いから気を紛らわすのに好きな音楽をかけてやるから」との事。それで当日ビートルズのテープを持って行くと「じゃ、やるか。一応松本歯科大に連絡は取ってあるから。もし動脈に傷付けたら直ぐに運んでやるから」。大音量でビートルズをかけていよいよ始まった。
麻酔を何本か注射して、まだ歯茎に埋まっている親知らずを見えるように切開したのだが「デカイな!こりゃ幾つかに砕かないと抜けねえな!」。いきなり親知らずに衝撃が来る。恐る恐る目を開けたら、親知らずにあてたノミに向かって金槌が打ち下ろされるところであった。金槌が打ち下ろされる度に、凄まじい衝撃が来る。「こりゃ多分顎の骨が亀裂骨折を起こすな」とか呟いている。Let It Beの大音響の中、「ボクサーも大変だろうな」となぜか思いながら、金槌の打撃に耐える。
数十分後「ハイ、終わり!」と粉々に砕けた親知らずを見せてくれた。
「歯茎を縫っておいたけど、まだそこんところは肉が盛り上がるまで穴が空いて状態。しばらく固形物は食べないで。数日したら歯茎に傷を入れ、肉が盛り上がるようにしてやるから」との事。
でも彼のおかげで何日かしたら歯茎も盛り上がり、痛みも無くなり至極快調になった。感謝感謝。

それから数年。国道を車で走っていたら、その先の工事の為にガードマンに止められ、「ヤァ、元気?」とそのガードマンが近寄って来る。見たらトクタニさんである。「???どしたの?」「歯医者が嫌になった。一生人の口の中なんか覗き込んでいる人生なんて嫌になった!」との事。「今晩、飲もうぜ!」。その晩だったかは忘れたけれど、ヨシユキさん宅で飲んだのだが「歯医者なんて潰しがききやしない。転職したくたって何の役にも立ちゃしない!」との事。「そんじゃぁハンコ屋になったら!」「嫌なの!もうチマチマした仕事は嫌なの!」。
で、結局その後彼は秋田に行き、広い田圃を買って米農家になったのである。ただそれから10数年、米農家としてやっていたが、急死してしまった・・・
あんな豪快な歯医者が居てくれたらなぁと思い出す。

ステンドグラスも潰しがきかないなぁと思いながら。

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